「んー? 真紅は影小路の血筋ですよ、って言う?」

「怪しまれるだけだろ」

いきなりそんな人が現れたら。

「従兄のお兄さんですよ?」

「それはそうだが……真紅嬢は紅緒様のことは知らんだろう? 紅亜様がお前のことを知ってるかも怪しいし……」

紅亜様は生後間もなく養子に出されていると聞く。本家の内情に、どこまで精通しているのか……。

「じゃー一から説明するしかねーのか……」

黒藤は目に見えて項垂れた。面倒くさいだろうが、それが正道だろうに。

「……黒」

「うん?」

「お前の座は、揺らがねえんだよな?」

確認に、黒は唇の端に笑みを載せた。

「さあ?」

愉快そうな顔をする幼馴染を睨む。当代最強の陰陽師は、間違いなく黒だ。しかし、黒は絶対的な力を持つ始祖の転生ではない。

もしも真紅が陰陽師として目覚めることがあったとき、当代最強の名を冠するのは、黒のままなのか――そして小路の跡取りは。

「どうだっていいだろ、そんなこと。誰が強かろうと、俺が護るべきは白だ」

「いや、まずは家と紅緒様を護ってやれよ。俺は自分でどうにかできるくらいではあると思うぞ?」

眉をひそめて言うと、何故か黒がうなだれた。だがいつものことで、すぐに復活する。

「……ま、いい。取りあえず、真紅には逢ってくる。じゃないと、母上が真紅にかけた封じが解けたとき、一斉攻撃を喰らいかねない」

紅緒様の絶大な霊力の守護で、真紅の存在は妖異には知られていない。

しかし、十六歳の誕生日、その守護の効力は切れ力をなくし、紅緒様は目覚める。十六年前に真紅が生まれた時刻になれば。

守護が一気に解けたとき、妖異は真紅の存在に気づくだろう。甘美な血を持った、現状ではなんの力も持たない少女。

「当面は、涙雨についていてもらうつもりだ。あんな形(なり)だが、強いからな」

「涙雨殿なら心配も少なくなるか……現状、真紅嬢は見鬼(けんき)でもないんだろう?」

「ねえな。涙雨のことも、今は黒い小鳥としてしか認識できないはずだ」

涙雨――黒の式。

「……紅緒様の封じが解かれたら、真紅嬢は見鬼になるのか?」