泣き言を言い始めた黒に厳しく言い、後ろ襟首を無月が摑んで歩く。
天音と無炎は、俺の使役(しえき)――式で、無月と涙雨、そして縁(ゆかり)という三基が黒の式だった。
黒の式は、主への態度が色々と非道い気がするが、黒の言動にも多分に問題がありすぎなので構う気はない。
「白桜―。……来たわね黒藤」
植木の小路を抜けた母家(おもや)の玄関口で待っていたのは水旧百合緋(みなもと ゆりひ)という名で、御門が預かっている少女だ。俺と同い年で、お互い物心ついた頃にはすでにここにいた。
「百合姫(ゆりひめ)。もう休んでいな」
俺が言っても、百合姫はその幼さの残る面(おもて)に剣を露わにする。
「話が終わるまでは起きてる。黒藤が白桜に不埒な真似をしたら、里おじいちゃんに合わせる顔がないもの」
「百合姫……」
キッと、黒を睨む百合姫。ほんとここは仲悪いなあ……。両方とも大事な幼馴染だから、二人に板挟みにされるのでいつも困っている。
俺が黒を呼んだのは、母家の私室。客間でもいいのだけど、内容が、な……。
当然、天音、無炎、そして黒の式でありながら見張り役の無月も同席する。
仕事の話と聞いて、百合姫はこの場に入ることは辞したが、居間で起きているのだろう。いつもなら百合姫の護衛に天音をつけるのだが、天音も無炎も、俺と黒を二人きりにすることの方を厭(いと)うので、俺が別邸に呼んだ家人の一人に一緒にいてもらっている。
「んでさ、お前は真紅嬢に逢ってどうするつもりだ?」
黒と、窓を開けた縁側で話す。十五夜も過ぎた頃合いだが、屋敷に結界を張っているのでその中では大して寒さは感じない。先ほど黒が大声を出しても、結界に閉ざされるので近所迷惑にはならない。
月は欠け始めている。