退鬼師である桜木は、今は廃(すた)れているが、歴代には強力な術者がいた。小路や御門の系譜ではないため、陰陽師とは質を異にする。
「紅亜様を桜木に出したのが問題だったんじゃねえかな……」
黒は夜天を見上げてぼやく。
紅亜様と紅緒様は、本家の双児だった。
小路は、本家筋の人間の中でも、兄弟が多くあれば、最も力の強い者が後継者となってきた。
妹の紅緒様が跡継ぎとなり、紅亜様は桜木の家に養子に出された。
紅亜様に陰陽師としての力がないだけなら、妹が跡継ぎとなっても、小路の今までを考えれば特に問題はない。だが、紅亜様にはそれだけではない理由があったと聞いている。
「黒。中へ入れ。冷えるだろう」
「ん? いいのか? ……敷地に入った途端矢が飛んでくるとか……」
「ねえよ」
呆れ気味に答えたが、黒の心配もあながち間違いではない。
俺の祖父であり御門の先代・白里(しろさと)おじい様は、ある理由から黒が俺に近づくのを嫌がっていた。
おじい様は隠居して京都の本邸に移ったのだが、首都にある御門の別邸には、俺のほかにも同居人が何人かいる。
そのうち数人は、おじい様が俺の補佐にとつけた一族の者だ。彼らにとって当主は俺だが、主人はおじい様だ。
「お前が来ることはみんなにも話してある。短く終わる話でもないだろ」
黒が今夜、御門別邸を訪れることは、涙雨(るう)という名の黒の式があらかじめ教えてくれていた。先触れ(さきぶれ)というやつだ。
「そうか……白が自分から俺を招き入れてくれるなんて、俺のよ
「天音―。振り下ろしていーぞ」
「やめろ!」
いつも通りの戯言(たわごと)を言うつもりだったらしい黒の髪を数本斬る勢いで、天音が大鎌を振り下ろし寸止めした。
黒の脳天貫かれるところだった。