「真紅ちゃんを助けた、ねえ……」
帰り道、私――桜木紅亜(さくらぎ くれあ)、夜天に呟いた。
真紅ちゃんの暮らすアパートから離れて、独りで暮らしている家へ。
真紅ちゃんに、本当のことは伝えていない。
私には恋人などいない。本当は独り暮らしだ。
年頃の娘を独りで置いておくなんて、自分でも不用心で危ないことだとわかっている。
けれど、私と一緒にいる方が、真紅ちゃんにはずっと危険だった。
真紅ちゃんは何も、知らないから。
教えていないから。
……教えるには、真紅ちゃんは血が濃すぎる……。
そして私は、無能だ。
私は、自分伝いで真紅ちゃんの存在が知られないように、離れることでしか娘を護ってやれない。
「紅亜さん? こんばんはー」
妙に間延びした挨拶がかけられた。
をあげれば、真紅ちゃんの隣の部屋に住む子だった。
「舞子(まいこ)ちゃん。こんばんは。今帰り?」
「はい。紅亜さんも、真紅ちゃんのとこですか?」
舞子ちゃんは近くの病院で看護師をしている。
夜勤もあるから滅多に顔を合わせることはなかったけど、舞子ちゃんが学生の頃からお隣で、真紅ちゃんとも仲がいい。
……私は舞子ちゃんにだけ、本当は恋人などいないことを話してある。
お隣さんに、真紅ちゃんに対して見捨てられた子、などと思われるのは嫌だったし、真紅ちゃんの知らない本当を知っている人がいてくれれば、私自身が安心するのもある。
「うん。……海雨ちゃんは、まだ入院してるの?」
海雨ちゃんが入院しているのは、舞子ちゃんの勤務先だ。