何をするのか問えば、ママはにっこり微笑んだ。
「そういう自分じゃ解決出来ないどうしよもないときはね、こうするといいのよ」
と、筆を半紙に置いた。
「………」
私は半ば呆然としながらそれを見ていた。
「――こんなとこかしらね」
満足げに呟いたママが書いた文字は――
『また逢えた』
――だった。
「あの、ママ……私逢えてないよ?」
逢える方法がわからなくて途方に暮れていたのに……。
「うん。だからこういう願い事とかどうしても叶えたいことって、過去形にしちゃうといいのよ」
と、墨が乾くのを待って、ママは更にそれをセロハンテープでぺとりと壁に貼った。
「毎日これ見て、毎日想うの。逢えた、また逢えた。だからきっと、また逢える――。そんな感じに、自分に言い聞かせるの。そうするとね、それを聞いた自然とか運とか、そういう誰にも触れられなくて人間にはどうすることも出来ないものが、聞き届けて叶えてくれるわ。そうか、そんなに叶えたいのか、そんなに逢いたいのか――ってね」
そうか――の下りをわざとらしく低い声で言って、最後にママはおどけるように私を見た。
「………」
私はまだ言葉がない。
なんと言うママらしい方法。
穏やかだけれど型破りで、優しいけれど気が強い。
そんな風に、自分を信じる方法。
「……」
初めて、私の顔がゆるんだ。