行って来いと目だけで伝える。
直後、やっぱり行くなと思った。
こんな俄然やる気の奴が出て行ったら黎に気づかれる。
「空閑(くが)。行ってくれ」
「御意」
一瞬だけ姿を見せた鎧姿の式に肯き、門叶(とが)に座れと座を示した。門叶は、若い女性の姿で、浴衣のような衣に薄い領巾(ひれ)が腕を巻いている。
「………ご主人様」
しおれた門叶。
「門叶。耳出とるぞ」
はっと頭を押さえる式を横目にしてから問う。
「門叶。……黎は昨日、どこへ行った?」
「わかりません」
「わからん……? お前、昨日いなかったろう」
「はい。……昨日は気まぐれに吸血鬼の尾行をしていたのですが、ぷつりと気配が途切れてしまいまして……」
「お前の気まぐれにはいつも感心させられるな」
「ありがとうございます」
「しかしそれは、あれがお前に気づいて姿を消したと?」
「いえ、それはないと思います。そうですね……吸血鬼が自分から消したと言うよりは、何かに呑み込まれた――ような」
「………」
呑み込まれた?
「……その後はどうした? いつあれが戻ったとか……朝にはいたんだろう?」
「眠くなったから帰ってきましたのでわかりかねます。朝にはふつーに自分の部屋にいましたよ」
「……お前は気まぐれ過ぎるぞ。もう一回耳生やせ」
「やです」
式の放置を決め、考える。