そこから、私にとっては『預かっている』形の黎。
正直、この国に吸血鬼というのは希少なので、手元に置いて観察出来るのはなかなかない機会だ。
黎は吸血鬼と言っても日本の鬼と異国の吸血鬼の混血なので、色々と先例から外れることがある。
例えば、食事が極端に少なくてよかったりする。
怪しまれないように、普通の人間と同じ食事もさせている。
が、それで満腹、ということはないようだ。
やはり主食は血だが、三日程度に一度、二、三滴ほども飲めばよい。
血を与えているのは、私の孫の澪だ。
澪は正統小埜家の血筋であるが、陰陽師としての力はない。
だから、澪を給仕(きゅうじ)にあてた。
……まあ、黎は毎回、不味い、もう飲みたくない、こいつの血は黒い――などと気に召さないようだが――だからこそ良かった。
好む血であれば、喰らいつくすが性(さが)の吸血鬼。
黎がそれに倣(なら)うかはわからないが、澪の血を好んで飲まれても困りものだ。
――それの加減を今、見守っている最中だった。
先ほど澪から連絡があった。
『黎の様子がおかしい』
孫が伝えた内容はそれだけだ。
あの孫は自分に陰陽師性がないのをどう思っているのだろうか。
……劣等感だろうか、ものすごく性格が歪んでいる。
人間としては有能――優秀な孫である。が、能力値――成績や功績――を見れば、黎には及ばない。
「……全くお前は」
《…………仕方ないのでまた見てきましょうか?》
「今私より沈黙長かったぞ、お前」
《だってー》
「一度符(ふ)の中に戻るかお前」
「遠慮します」
さっと顕現(けんげん)――姿を現――した式を、私は睥睨(へいげい)した。