……どっちの差し金だ?

病院を出て、胡乱に思った。

澪とその父は小埜の血統であるが、相応の力はない。

このままだと、澪の祖父で現当主である、小埜古人(おの ふるひと)で小埜家の家業は途絶える。

小埜家は、陰陽道の大家、影小路(かげのこうじ)の流れを組む陰陽師一族だ。

だが、その滅びも抗えない時の流れか。

――恐らくはその使役が、俺を尾行(つけ)てきている。

真紅の血を吸ったことがバレたか?

いや、それならあのじじいなら正面切って殴りこんでくるだろう。変に思われた程度か。

……外の空気がすきだ。

閉じ込められていた時間が幼さの大半であるからか、ただ固定された空間の中にいない時間がすきだ。

夜の散歩で――

昨日は更に食事の日だったので、飲まされた不味い血の残り香を振り切るように月夜を歩いていた。

どこでもないところへ行きたいと。

――ああそうだ。

一度は母の育った家を見てみたい、とか、そんな益体もないことを考えながら。

そんなことで時間を潰していたら、香って来た。

たぶん、人生で初めて自分から探したもの。

月の香りの、少女。

……あの夜は、はっきり言って不可解だ。

真紅は実際、死にかけていた。真紅は深く考えていないようだったが――前後の状況が異常だ。

真紅は襲われた瞬間のことは憶えていないのか、見ず知らずの俺に対しても、恐怖していなかった。

警戒はされていたが、それは俺のアホな言動の所為かと思う。自分、吸血鬼とか普通に聞いたらまともではないことを初っ端から名乗っているし。

人間の世界で考えれば、通り魔だが……。