「……はー」
息を吐いた。
この吐息に混じって今、胸にうずまく気持ちも流れ出てしまえばいいのに。
こんなにも自分に恋が似合わないと思わなかった。
何で自分は人間じゃないのか、とか、考えればいいのかもしれない。
でもそんな益体(やくたい)もないことを考えても時間潰しにもならない。
真紅。
たった二つのその音ですら、こんなに愛しい。
それが姿を伴って目の前に現れたら。
狂おしいほど愛してしまいたい。
……つったって、ここサボったらじじいがうっせーしな。
俺がここを離れることはできない。だから真紅は今日たまたま、病院にいただけであってくれ。
+
「黎、何してんの」
呆れた声をかけられ、意識は覚醒した。
「え、……ああ」
そこは院長秘書室の一角。
俺を《監視している》人物の息子がこの病院の院長を務めていて、俺は更に家にいる以外の時間も目のつくところに――ということで、病院で働かされていた。
大学に通い、時間が空けば病院にいる。
仕事は院長の補佐、そして心療医見習い。
血に触れることは赦されないので、けれど耐性をつけろとか意味のわからない理論を持ち出され、心療医を目指す身になっていた。
俺自身、望んだ自分がなかったから将来をどう決められようと構わない。
――はずだった。昨日までは。
「仕事遅いと怒鳴られるよ」
傍らに立つ長身の人物は、俺が「じじい」と呼ぶ人の孫。小埜澪(おの みお)。怜悧な声で言い置き離れようとしたが――
「……黎?」