「はー……」

時間を稼ぐためと、同じ階にいては海雨に見つかってしまうと思ったので、自販機で買うのではなく売店のある一階まで降りた。はー……困った。

海雨の分もお水買っていこ。

海雨は過度の糖度やカフェインの摂取が制限されているので、ミネラルウォーターを選ぶ。

自分も同じもの手にして、会計を済ませた。けど、海雨も普通の女子なんだよねぇ。

恋バナ大すきか。

でも、まさか黎のことは何と説明していいのだろうか。助けられた、だけなら言えるけど……。

海雨のことだから、いつ、どこでどんな状況で――と話を掘り下げてくるだろう。

そうしたら言える言葉がない。

もう逢えない人なのだと。

どこにいるかも知らない人なのだと。

「え」

思わず声を出してしまった。

すれ違った人がいた。

「れ」

背中しか見えない。でも、

追いかけた。

「………いな、い……?」

その先には誰もいない。

「ま……そだよね……」

こんな偶然で都合よく逢えるわけがない。

そんな物語の中を生きてはいない。

そこに大すきな人がいるなんて。

妄想が見せた幻だろう。

………。

どこにいるの?

淋しく、そう思う。