…………。あれ?
今サラリと思ったけど、あれは――やっぱり黎は、私の中で『すきな人』にカテゴリーされている? だって今、そう思っちゃったし。
……けれど黎は、違うと言った。
私のその感情――黎に抱いているもの――は、生存本能がそうさせるのだと。
……でも、誰かを『すきだ』って思ったの、初めてなんだよ。誰かを、恋愛対象として。
「真紅? どした?」
「………」
どうしよう……どうしようもなくやっぱりすきだ。暁なんかで消えてはくれなかったんだよ。
言われた通りじゃないと言い張りたい。本当に、すきなのだと。大すきなのだと。
一緒にいたいのは最期のときだけじゃなくて――
「真紅―? 大丈夫? どっか痛い?」
「……えっ?」
痛そうな顔をしているのは海雨だった。
私の顔を覗き込んでいる。
「……うん。怪我はしてないよ」
「……真紅?」
私のヘンにに落ち着いた表情と声に、海雨は不安げな声を出した。
「真紅……すきな人でも出来た?」
「……うえっ!?」
いきなり核心を衝かれて、それまでの平静が消えた。海雨は俄然ノリノリだ。
「ねえっ、そうだよねっ? 真紅恋してるよねっ? 誰? あたし知ってる人? もしかして桜城くん? だからあんなこと訊いてきたの?」
矢継ぎ早な質問に、顔が火照るのばかりを感じる。海雨の目は鋭い。
たった今気づいた自分の心は、もう親友に見透かされている。
「~~っ、わ、私飲物買ってくる!」
「あっ! 逃げるなー!」
逃げさせてくれー!
心の中で叫んで、海雨の病室を飛び出した。