ふと、架くんが顔を覗き込んできた。はっと意識を現実に戻せば、学校の門は間近。架くんは心配そうな顔をしている。怪我? それなら昨日、致死量の怪我をしたみたいだ。黎によって綺麗に消されたけれど。

「ううん。ないけど?」

あの傷は、何と説明していいのかわからない。あまりにも大きな問題なので、あの死にかけた傷はなかったものにしよう。あるのは、生かしてくれた黎の証だけでいい。

「そう? ならいいんだけど」

そこで、架くんに取り巻く女子生徒たちが見えたので、私は先生に呼ばれているからと適当に理由をつけて一人足早に校門をくぐった。


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「桜城くん? 別に来なくてもいいけど」

「だからすきだよ、海雨(みう)」

放課後、私は病院にいた。私立でかなり大きな病院。入院している幼馴染に逢うためだ。

梨実海雨(なしみ みう)。私の幼稚園からの友達。

海雨は今、ドナーを待つ身。元々身体が弱く、高校に入学しても入退院を繰り返していた。薬治療をしているが、根本解決するなら器官を取り換えるしかない。

私はその、適合者だった。

医者を脅して調べさせた。医者は半泣きだった。私は強きだった。海雨のためならそのくらい何のそのだった。

窓の方を見るように、ベッドのふちに並んで腰かける。海雨は髪を左肩に寄せて緩い三つ編みにしていた。

「んー、イケメンなのはわかるけど、何であそこまで騒ぐんだろうね」

「優れた遺伝子どうのってんじゃないの? わかんないけど」

私は、海雨とはこういったところで気が合うからすきだった。騒ぐところが似ている分、騒がないところも似ている。

「でも真紅、桜城くんに変なことされてるわけじゃないんだよね?」

「変なこと?」

「言い寄られたりしてない? 口説かれたり」

「いや、あるわけないでしょ」

「そうかなー? 一応用心しなよ? 真紅、フリーなんだから」

「用心する理由もないと思うけどなー」

もうすきな人はいるし。