泣いていた。

やわらかな熱が離れていくのが淋しくて。

あたたかな瞳が閉ざされるのが淋しくて。

その熱で手を握って。

その瞳に私を映して。

それだけが、今の気持ち。今の私の全部。

全部全部、私は黎だけになっていた。

朝は当たり前のように来た。夜が続くことを願ったのは初めてだ。遮光カーテンの向こうに見えた朝焼けの色に、絶望の光もあるのだと教えられた。

離れることを嫌だと思った人と出逢ったのは、夜だった。

逢いたい。逢いたい。

でも、あの人が私に架けた願い。人間として、生きる。……それも叶えたい。

「真紅ちゃん、顔色悪いよ?」

「え? あ、おはよう」

義務感? わからないけれど、多分彼はこういう人間の生活はしていなかったのだろう。ならば私が叶えなくては。だって、ね。

「おはよう。昨日も梨実(なしみ)さんのとこ?」

登校途中の私の隣に立って歩くのは、苗字が同じというだけでよく構われて、それがちょっと迷惑なクラスメイト、桜城架(さくらぎ かける)くん。

と言っても、彼に問題があって迷惑しているわけではない。明るく社交的な性格で友達は多く、サッカー部の人気者。つまりは人目を集める容姿と性格と才覚のため、架くんを好きな女子生徒は多くて、その中に含まれない私は、構われるとついでに女子の嫉妬というおまけもついてきてしまうので困惑している。

架くんを拒絶してしまうのは申し訳ないし、かと言って女子たちの嫌がらせを甘んじて受けているのもしんどい。彼氏でもいれば女子たちの誤解は解けるのかもしれない――

――黎が彼氏になってくれたらいいのに。

そうだと名案が思い付いて、その一秒後には絶望の朝に還ってしまう。黎には逢わないと言われてしまった。そんな人にどうやって彼氏なってほしいと言えるの。

どこにいるのかもわからない人なのに。

背中には引っ掻き傷一つない。ただ、首筋に残った牙の痕しか、私にはない。

「真紅ちゃん、怪我した?」