誤魔化すしか、なかった。真紅は真っ直ぐに問うてくれたのに。

「そこは答えてくれなくちゃ」

「真紅の気持ちは真紅にしかわからんだろ」

「……そりゃそうだ。それがね、今ぐるぐるまわってて、整理がつかない」

「………」

真紅は、自分を襲って殺しかけたものを、怖いとか、そういう風には思っていないのか?

死にかけたことは理解しているようだ。でも、その犯人のことは、原因のことは、一度も口にしていない。……防衛本能が、口にすることを拒否しているのだろうか。

「……な。真紅は今、俺に反抗出来ないだろ?」

「へ?」

急に変わった話題にか、言葉にか、驚いたように振り仰いできた。俺は瞳を細める。

「俺の血を容れたから、それが完全に《真紅》のものになるまでは真紅に俺は必要なんだ。例えでも俺が死んだりしたら、一緒に俺の血も死ぬ。死なないために、俺がすることに、しようとすることに抵抗しない。例えば――」

真紅の肩を抱き寄せると、勢いのまま俺の肩口に真紅の額がぶつかった。

「いきなりこんなことされても、抵抗しようとか思わないだろ?」

「と言うか……今何が起きている? あれ? 黎どこにいんの? 目の前が真っ暗で……え? 私目ぇ瞑ってる?」

「……さらにお前は鈍くさいようだな」

「どういう意味だおい」

「勝気なとこは好みだ」

「………。私はどうすればいいの」

「嫌なことは嫌って言えばいい」

そっと、肩を押して体を離す。急に瞳に入って来た月明かりが眩しかったのか、真紅は目を細める。

「今――真紅が俺に抱(いだ)いているのが好意だったら、それは真紅の生存本能がそうさせているだけだ。俺はそれに乗じて真紅を――弄んでるだけかもな」

アパートを出てからずっと手や肩と、真紅に触れていた手が離れた。

「真紅が天命待って死ぬときに逢いに行く。それまで、ちゃんと生きろよ」

「れ――

「生きて恋して、生涯の伴侶を持って、子に恵まれて、俺が憧れるような生き方をしてくれ」