「いるよ。人間ではないモノってのは、案外多い。姿かたちがよく似ているから、普通の人間には見分けがつかないんだろうな。鬼は人間より長命だったり、死ににくかったり、あとは個人にもよるけど突出する才の幅が大きい」
「へー」
「疑わないのか?」
「なにを?」
「俺のこととか、話していることとか。普通に聞いたらただのヤバい奴だろ」
「あ、確かに。……でも、助けられた、のは本当だし……」
すっと、真紅の首筋に指先を触れさせた。
「ごめんな」
「へ?」
「牙痕(がこん)。これだけは俺にも消せなくて……女の子なのに、傷つけて悪かった」
最初は、血を頂くつもりで噛み付いた。でも、生かしたいと思って、噛み付いた場所から自分の血を入れた。俺の血が人間に馴染むかは賭けだったけど……真紅は、目を覚ました。
「いや、本当に命を救われたのは私だから。だから……」
「どうした?」
「……ちょっと、頭の中こんがらがってて……考えるから、時間ちょうだい?」
頭の中? 何か不安なこと……真紅を襲ったモノのことだろうか。
「考えなくていい。今思ってることを言ってくれれば」
今、思っていることを。俺も、真紅と話す傍ら考えていた。あれは――
「全然、知らないから、不安」
? 知らない?
「何を?」
「黎のこと。私を助けてくれたとか、人間じゃないとか、わかったけど……全然知らない人を、すきになることって……あるのかな?」
見上げる真紅の瞳の色に、どきりとした。
色がある瞳。放つ光彩が、虹のように綺麗だ。
そして、音にされた言葉。
「……さあな」