「……?」
「この子が生きているのを見たいって思ったんだよ」
「……!」
「あ、理由は訊くなよ? 俺も今んとこわかってないからな」
「あ、あの……ごめん、話が全部わからない……」
「んー、そうだなー。まあ要は」
「!」
黎が私の顎を捉えた。やや上向かされて心臓が跳ねる。
「真紅に生きていてほしい。叶うなら、俺の主となって」
「……えっと」
「言っとくけど、義務とか責任感じるなよ? 俺がお前を助けたのは俺の勝手だし。後悔しちゃいないけど、代わりに俺の言うこと聞こうとかいうのは筋違い。真紅の意思で、俺が近くにいるのを許してくれるんだったら、な」
「私の血でいいの?」
「ん? そこ?」
「いや、さっきマズい血って言ってたから。たぶん私の血はマズいと思うよ? 性格悪いし根性ねじ曲がってるし優しくないし」
「……それがお前の自己評価?」
「うん」
黎は顎から手を離して、私の頭をぽんぽんとした。
「はずれだな、それは。真紅はいいにおいがしてうまいよ」
……血の味の評価なんてされる人生、あるんだろうか。
「……黎がゲテ食いなんじゃなくて?」
「お前……自分のこと何て言い方すんだよ」
さすがに呆れた声を出された。
「つっても、俺は真紅のストーカーじゃねえし、真紅のことは何も知らない」
「知ってたら刑務所」
「俺は有罪確定なのか」
うん、拘置所ではない。
「まー、だから? 真紅のこと教えてくれないか?」
また、背中には銀の月。光を背にしたその姿が、微笑みかけてくる。