私とママは、二人のいたアパートから一番近い、影小路所有の家で暮らすことになった。もちろん紅緒様も一緒だ。
紅緒様が早々に――意識を取り戻した日に――決めて来たので、私もママも、それぞれ住んでいたところから直接、影小路の家に移ることになった。
「真紅ちゃんの方から引っ越ししちゃいましょうね」
ママの提案で、そうなった。
「え、黎?」
ママのアパートから住んでいた方へ戻ると、そこには黎がいた。
「引っ越し、手伝えることがあったら思って」
「あ、ありがとう……。病院とか学校は大丈夫なの?」
「ちゃんと暇もらってきた。そしたら架までついてきてなー」
「主家の大事だ。出奔(しゅっぽん)した兄貴にばかり任せるわけにはいかない」
真面目な顔で言うのは、桜城くんだった。桜城くんには、転校することは伝えてある。飲み下しきれない顔をされたけど、それだけだった。
「黎くん、架くん、ありがとうね」
今、一緒にいるのはママだけだ。紅緒様は、これから住む家の方で準備をしているそう。
家具なんかは持って行く必要ななさそうなので、本当に身の回りのもの、着替えやら学校のものだけだいいようだ。
「いいえ。こちらが勝手にやりたいだけです。お邪魔でなければいいのですが」
「そんなことないわ。ほんと……真紅ちゃんのために、ありがとうね」
ママは、穏やかに話しかける。私はママの思いがありがたい一方、この双児の妹はあれだからなあ……という複雑な心境だ。
「黎……紅緒様には逢いにくくない? 大丈夫?」
「んー、また怒られる心配はあるけど、でも、真紅に逢いたかったし」
「黎……」
二人の空気を作っていると、黎の隣にいた桜城くんが居心地悪そうに咳払いした。
が、それを気にする兄ではなかった。一方の私ははっとして、慌てて視線を逸らした。早口で照れ隠しをする。
「あ、ありがとう。一緒に来てくれれば、新しい家の場所もわかるよね」
黎は、私の照れように苦笑してから、手を取ってそっと囁いてきた。
「うん。何度でも、逢いに行くから」
END.