「一般的に言えばそうかもしれませんが、母上はこの時代に俺を産んでくださった。白のいる今に。それだけで、俺は十分です」

「………」

まことは女性であるのに、男としてしか生きる道のない白。母上にとっては、親友の愛娘。

「そういえば母上、どうやってここへ来たんです? 母上の使役(しえき)に時空の転移が出来るものはいませんでしたよね? 涙雨は遣いに出していませんが」

「水鏡繋いでぶち破ってきました。手っ取り早かったので」

「………」

水鏡は連絡手段なんだけどなあ……。微笑のまま固まる俺。……白の評通り、自分は、母上を越えられそうにない。

「そろそろ戻ります。本家もそのままにしてきてしまいましたから」

「すぐに戻った方がいいですよ。母上待望論も多くありますから」

母上は納得のいかない顔でこちらを見返してから、手の中で術式を発動させた。

人を覆うほどの水鏡が出現して――普通の人には視えないもの――、母上は俺を振り返った。

「出来ることなら、お前も一緒に暮らしてほしいものです。本家でとは言わないから、考えておきなさい」

そのまま、水鏡の鏡面に姿を消した。

母上の影までが鏡に呑まれると、水鏡は霧散した。術式の残滓を手中に収めて、握りつぶす。

「俺は一人のが合ってるんですよねえ」

白以外といるのは、なかなか苦手なんです。