海雨があたふたと頭を下げると、紅緒様はすっと目を細めて微笑んだ。

顔の造形はママと同じはずなのに、ママが柔らかい印象であるのに対して、紅緒様は微笑みですら鋭く見える。

「真紅はこれから、わたくしと姉様と一緒に影小路の家の一つで暮らすことになります。早く、遊びに来られるように元気になってくださいね」

「は、はいっ」

海雨は緊張気味だけど大きく肯いた。私は唇を引き結ぶ。

――海雨の身体に残った妖異の残滓(ざんし)。少しずつ、海雨の命に触れないように、目に見えぬほどの糸を断ち切るように私が浄化していく。

……やれる。

やるんだ。

――そのために私は、影小路に入るのだから。

「では、わたくしは一度本家へ戻ります。真紅も、一度は本邸へ来てもらうことになるから。姉様がどうされるかは、わたくしと姉様で決めます」

紅緒様は一礼して、出際に黎を睨んでから海雨の病室を出た。

「……紅亜さんそっくり」

「ね。直接逢ったのは、私も今日が初めてなんだけど……」

「けど? なんかあったの?」

私が黎を見ると、黎は微苦笑を浮かべた。

「……黎とのこと、思いっきり反対された」

「叔母さまが反対するの? じゃあ紅亜さんも……?」

「ううん。ママは認めてくれたんだけど……」

言いよどむ私の隣に、黎が立った。黒い瞳で。