「なにそれ! 交際ゼロ日婚ってやつっ?」

「あ、いやすぐに結婚するわけじゃないよ? 影小路に入ってやることとか、決めることとかたくさんあって、それが片ついたらって言われてるから……」

「で、でも、プロポーズされてるよね? それ」

海雨はかぶりつきの勢いで私の腕を摑む。

「真紅が自分の道を見つけたら、ってくらいかな」

「黎!?」

「ごめん、真紅。真紅のとこに行くって言うのを、黒藤と月御門だけじゃ抑えきれなくて、結局俺が案内を……」

「真紅の親友に挨拶することの何が悪いというのっ」

扉を開けた黎を押し退けて入って来たのは、叔母(しゅくぼ)だった。ついでに黎が叱責されている。

「紅緒様……」

私がびくびくしていると――逢った途端に彼氏を投げるような人にすぐに心を開けと言うのが無理な話だよ――、紅緒様は私たちとはベッドを挟んだ反対側に立った。

着物の裾を揃えて立つ姿は、こんな心境でも美麗に見えた。

「初めまして、梨実海雨さん。真紅の叔母の、影小路紅緒といいます」

「は、はじめましてっ、真紅にはいつもお世話になってますっ。……紅亜お母さんによく似てますね……って、紅亜お母さんがドッキリ仕掛けてるわけじゃないよね?」

あまりに似た面差しに戸惑った海雨が、私と紅緒様を交互に見比べている。

「紅亜姉様とは双児なんです。海雨さん――」

ふと、紅緒様は着物であるのも気にせずベッドに膝をついて身を乗り出し、海雨の顎に手をかけた。

「く、紅緒様っ? どうしたんですかっ?」

「うん――。これからも、真紅と仲良くしてやってくださいね」

「も、勿論ですっ。くれおさんも、よろしくお願いしますっ」