「えっ、でも……」
「だったら、真紅がおいで?」
黎明の吸血鬼は顔を背けたまま、瞳だけで私を見てきた。
「寒いから、ちゃんとあったかくして。俺のこと知りたいんだったら真紅が外に出ておいで。……危ない目には遭わせないから」
鍵を壊した。
自分を閉じ込めていた部屋の、鍵。
私が初めて見た外の世界は夜。銀色の輝きを背負って、優雅に立つ彼の場所。
そこに行きたいと、思った。
そこに、いきたいと。
そこで、生きたいと。
+
「ん。ちゃんと厚着してきたな」
彼は階段の下で私を待っていた。言われた通りにジャケットを着てマフラーを持ってきた。十月も終わりの今、常用するにはまだ微妙な時期だけど、帰りが遅くなったりするからもう出してあった。
「これ」
白と茶色のチェック模様に、幾筋かのピンク色のマフラー渡すと、黎明の吸血鬼は面食らっていた。
「男の人サイズの服はなくて……ないよりはマシかと」
言い訳をする私を見て、黎明の吸血鬼はまた軽く笑った。おかしそうに。
「ありがと。借りるよ」
受け取り、首に巻きつける。そのまま手を差し出して来た。
「近くに公園あったから、そこに行こうか。道端で話してるのも難だし」
「うん」
嬉しい。
どうしてか、黎明の吸血鬼の一挙手一投足が嬉しい。私は肯いてその手を取った。自分はどんな顔をしているのだろうか。黎明の吸血鬼にはどう見えているのだろうか。
笑っているの、かな?
「さっき起きる前にあったこと、ちゃんと憶えてるか?」