紅緒様の目覚めと真紅の封じが一日早く解かれたのは、総て黒による操作の所為だ。

紅緒様のかけた封じに綻びはなく、黒が何もしないでいたら、双方の目覚めは予定通り明日だった。

黒の企みを聞かされた紅緒様は納得のいかない顔で、やっと暴れるのをやめた。紅亜様が安堵の息をついている。

「……それで、真紅はどうしたのです。真紅の封じを早く解きたいだけの理由は見当たらない」

「母上には予定外の来客がいまして。今は隣の部屋に、真紅は恋人といま

「真紅―!」

「だから叫ぶんじゃないっ」

黒の言葉を聞き終わる前に、紅緒様は姉を振り切って飛び出した。

「……お前の母上、評判通りだな」

「少しは落ち着いてほしかったなあ……」

さっきまで悪の親玉的企みを披露していた黒が一転、疲れた顔で言う。

「真紅んとこ行くか。せっかく助けた黎明のを、紅緒様に殺されちゃ可哀想だ」

「……悪いな」

紅緒様の乱入で一気に疲れが出て来た俺と黒は、小埜家への話は終わりだと立ち上がった。

「若君――」

「翁。今話したことが今回のことです。言いましたが、黎の処遇は決まり次第教えてください。母上の回復、始祖の転生等等は、十二家へは本家から通達がいくでしょう。……患者さんたちに迷惑をかけないうちに母上を連れて帰りますので、今日はこれで」

あの紅緒様の勢いで叫び廻られては、病院という場所の意味がない。紅緒様……。