私はただ、黎に抱き付いていた。涙を止めることは出来ないけれど、離れることの方がもっと出来ない。黒

藤さんと白ちゃんは、みおさんと白衣の男性に説明するからと言って、部屋に私と黎を二人きりにして出て行った。

黎も、私を腕の中に置いて離れようとはしなかった。

生きている。私の力が戻っても、血が目覚めても、黎は、この人は生きている。

吸血鬼として、鬼人として、最後の息を吐ききった黎は、もう人間(ひと)だ。

――そして私には、記憶が戻っていた。

過去の記憶総ての中に、妖異はいた。私の意識が認識していなかっただけで、私の周りには人間じゃないものが当たり前のように存在していた。

そして、血が目覚めた私の意識は、それらを意識せずとも認識していたことを思い出させた。これからは、彼らの姿や声があることが、私にとっての日常になるとわからせてきた。

「黎……本当に大丈夫なの?」

「問題ない。少し言うなら、貧血みたいな感じにはなってるかな。血を吐いてはいるから」

私の声も、黎の返事も穏やかだ。

けど、と私は眉根を寄せた。

「問題あるでしょ。少し横になって? もう血は飲めないっていうんなら、睡眠と食事で血を回復しなくちゃでしょ?」

「ん。………」

黎を横にさせようと、やっと黎の背中から腕を離した。今は黎の体調が一番だ。

「え……何? なんで見てくるの?」

やけにじーっと見てくるので、慌てた。泣き過ぎてヘンな顔にでもなっているのかな……。

「寝ている間に真紅がいなくなってるんじゃないかなーと」

黎の心配に、思わず口元は綻ぶ。