「……あなたは、誰なの? どうして私に、そこまでしてくれる……?」

今しかなかった。でも、もう言うことはない。

鍵のかかった部屋の、私の秘密の言葉。声に出せば叱られる願い。秘密の小さな願いだった。

部屋の鍵は開いた。中は空っぽ。

言葉、消えてしまった。見つめて来る銀の瞳の、その奥に吸い込まれるように。

とても、触れてみたい。この人に、優しくされてみたい。この人は、優しい。

 わたしにやさしい。銀の人。

身のうちの感情に困ってしまう。なんでこんな、初対面の怪しさ満載の人に一喜一憂されなくちゃならない。

この人にたくさん怒られたのは、たくさん心配していてくれたからで。

私の言葉もちゃんと聞いてくれて、この人なりの答えをくれた。

あ――こわく、ない。最初っから感じていたこと。この人は、怖くない、と。

「あの、寒い……でしょ? 投げちゃってごめんなさい……こっち来ていいよ?」

ぶっ飛ばした私が言うのも難だけど、もう冬になりかけている時期の夜だ。

「んー、それは駄目」

彼は困ったように首を傾げてからはっきり断った。さっきまでの強引に奪ってくるような態度とは違う。

「さすがにね、真紅。お前が男に免疫ないのはわかったけど、そういうこと簡単に言うのはやめな? 危ない」

「……あなた以外には言わないと思うよ?」

「………」

正直なことを言ったら、目をまん丸に見開いて顔を背けた。

「あ……の?」

「お前なー……」

低く唸るような声。だけれど、どこか朱を帯びた声音。

「あーもうダメ。絶対そっちへは行けない」