言って、反対の手を私の後頭部に廻して引き寄せた。唇が重なる。
「⁉」
黎のいきなりな行動に思いっきり硬直してしまった。
少しして黎が顔を離すまで、されるがままだった。
「うん。やっぱりこっちだな」
「れ、黎明の! 女性にいきなり何するんだお前は!」
「ヤローにいきなりこんなことする方が問題じゃないか? 御門の主」
「そういう問題じゃない!」
と泡喰っていきり立つ白ちゃんを、進み出た黒藤さんが抑えた。
「黎。白は純粋なんだ。急に目の前でいちゃつかれても困る。それに――真紅に至っては魂抜けちまってるんじゃないのか?」
私は硬直が融けないでいたけど、名前を黎に呼ばれて直後に顔を真赤にさせた。熱さが昨夜の比ではない。沸騰するんじゃないだろうか。
黒藤さんが呟いた。
「黎の鬼性(きしょう)だけを浄化したか。変わった退鬼の法もあったものだな」
一人納得する黒藤さん。黎との間に割って入られて、背後に廻された白ちゃんはやっと落ち着いて来た。
「どういうことです? 若君。影小路の姫の血を吸って――黎は無事なのですか?」
みおさんが訊ねる。黒藤さんは「うん」と肯いた。
「真紅は、今は滅んだ退鬼師・桜木の末裔(まつえい)でもある。黎が真紅の血を吸ったっていうのは、妖異に襲われて失血死しそうだったところを、黎が助けた際のことだ。黎が真紅の血を吸った時、反対に真紅に黎の血を送ったんだろう? それで真紅の身体は、異物である黎の血の、鬼性を浄化したんだ。それに呼応されて、黎自信の血からも鬼性が退治られた。黎、真紅の血を吸ってから一度でも他の血を欲したか?」
「いや――それを考えるとむしろ吐き気がして……真紅の血をもらったのが最後だ」
「澪、その間、黎の体調に問題は?」
「ない、です。……祖父が、実験的に間隔を伸ばしているものと思っていました」