「れい……?」
大きく目を見開くと、目元に溜まった涙が一気に流れ落ちた。
「真紅? ……どうした、そんなに泣いて……」
かすれた声。そっと、黎の指が私の頬を拭った。これは……夢? それとも、神様とかいう存在が二人にくれた最期の時間だろうか――。
そんな思考が浮かんでしまい、それを否定しようとしたとき、黒藤さんから笑声がもれた。
「黒!」
白ちゃんが叱責するけど、黒藤さんは肩を震わせている。
「いや、すまない。真紅、黎。なあ、白。俺たちは始祖の転生の力を甘く見過ぎていたようだ」
「黒藤さん……?」
どういう、意味だろう……。
「若君、どういうことです? 現に、黎は吐血して倒れたんですよ?」
「ああ。不要な血を吐いて倒れたんだ」
不要な血? 黒藤さんを見返すと、白ちゃんが歩み寄って来て、私の隣に片膝をついた。
「黎明の、身体は起こせるか?」
「え? ああ……」
黎が上体を起こすのを、反射的に背に手を添えて手伝った。白ちゃんは、黎の手首辺りに触れた。
「うん。心音に問題はない。脈拍も正常だな。真紅、心配しなくていい。黎明のの命と世界は、生きる道を選んだよ」
「……どういうこと? 黎は……大丈夫なの?」
「黎。お前、その近さにいて真紅の血がほしいと思わないのか? 一度飲んだんだろう?」
黒藤さんが投げた質問に、みおさんと白衣の男性はぎょっとした。
「黎!? お前そんなことを!?」
「まさか、影小路の姫の血を飲んだのか!?」
同時に怒鳴られて私がびくっとしてしまった。矛先を向けられている黎は平然としている。黒藤さんの問いかけへの返事でも考えているようだ。
そして、じっと私の顔を見て来た。銀色の瞳。また、その瞳に映ることが出来た――
その感慨に泣きそうになっていると、黎は私の手に触れて来た。
「……血より、こっちのがいいな」