「真紅、危急の事態、気分が回復しないのはすまないが、行くぞ」

「うん……」

黎に、何かあったんだ。切羽詰った様子は、この場にいる全員からわかる。

「天音、無炎、残党がいるかもしれん。総て捕らえておいてくれ」

「承知した」

「承りましたわ」

「無月は無炎たちと一緒に。涙雨、お前は縁のところへ。紅亜様をお護りしてお連れしろ」

「ああ」

『あいわかった』

白ちゃんと黒藤さんは、それぞれ式に命を出した。

「白ちゃん……何があったの?」

白ちゃんは、まだふらつきの残る私の手を引いて走る。先導するのは『みお』と呼ばれた青年。非常階段を駆け上がる。

「真紅を狙う一番の危難は退治てきた。しばらくは妖異に狙われる心配はしなくていい」

それが、先ほど話していた烏天狗という妖異のことだろうか。

「だが、黎明のは状況ははっきりしない。とにかく、行くしかない」

「若君、御門の主、こちらです!」

みおさんは非常階段から棟内へ繋がる扉を開けた。そして一番近くにあった部屋へ導く。

「父さん、若君たちが」

「ああ」

部屋の中にいたのは壮年の白衣の男性。その傍にはソファがあって、黎が横たわっていた。

「黎!」

白ちゃんの手を離れて駆けよった私は、勢いのまま膝をついてその頬へ手を当てた。冷た――くはない。むしろ、緩やだが鼓動が伝わってくる。

「黎! 黎! ごめん、なさい……っ」

まだ命が続いていると言っても、血を吐いて倒れたんだ。そして同時間に私に起きたこと。無関係なはずはない。

「ごめんなさい……黎……!」

視界が涙で揺らぐ。

指が、黎の口元に残った血に触れた。その瞬間、血は弾けるように消えた。そして――

「っ……まこ………?」

大すきな、声が自分の名前を呼んだ。