『紅(くれない)のちい姫』

見えてくる映像の端々に映る、月の色をした女性の口がそう囁いた。

そして一番大きく、ママと同じ顔をした、けれど別の人が私に向けて手を差し伸べる映像が見えた。

――私は、その手を取った。

「桜木真紅っ?」

現実から聞こえた声に呼び戻されるように、私の意識は一気にクリアになった。

痛みは引いている。見えるのは黒藤さんと――知らない青年だった。中性的な容姿だけど、白ちゃんのときにもわかったように、彼は男性だとわかる。

「澪」

黒藤さんがその名を呼ぶと、青年は萎縮したように顔を強張らせた。けど、すぐに私を見て来た。そして大きく舌打ちをした。

「若君! これは一体どういうことですか!」

「黎に異変か」

「血を吐いて倒れました。その血は、蒸発するように消えました」

血が、蒸発……? 今、黎が倒れたって――? 背筋が冷えあがる。そんな―――

「真紅、行くぞ」

意識がはっきりしてなお、知らないはずの映像が頭の中を流れた浮遊感の残る私の腕を引いたのは、白い陰陽師だった。

「はくちゃ……」

「白。情勢は」

「ここに来るまでに頭(かしら)を捕らえて来た。やはり真紅を狙ったのは烏天狗だ」

いつの間に来たのか、白ちゃんと黒藤さんが話している。

白ちゃんに手を引かれてあげた視界には、白ちゃんの式の天音さん、無炎さん、そして金色の大鳥のままのるうちゃんと、紫色の髪をした青年――黒藤さんと無炎さんによく似た造形だから、この人が『無月』さんだろう――がいた。

天音さんは身の丈より長い大きな鎌を、無炎は日本刀を手にしている。――何かと戦闘があったのが見てとれる。