「では――真紅ちゃんはどうなるの? 紅緒が目覚めたら……」
「母上の目覚めとともに真紅の力への封じは解かれるという術です。真紅の力は一気に戻るでしょう。封じられていたものに桜木の血があれば効力も目覚め、その反動は黎のところへ行く。退鬼の力が黎の身を駆ける。紅亜様は申し訳ありませんが、見鬼でない者を涙雨の力で送ることは出来ない。真紅と先に病院へ行っておりますので、縁とともにいらしてください。――涙雨」
黒藤さんが式の名を呼ぶと、玄関先に人よりも大きな、それこそ鳳凰のような金色の鳥が現れた。
「――るうちゃん?」
私はただ、その姿に驚きの目を見開く。
『若君、お嬢。涙雨はばっちしおうけいじゃ。涙雨の翼に寄れ。一息にびょういんまでゆくぞ』
そう、るうちゃんの声が聞こえて、鳥は翼を広げた。黒藤さんが金色の鳥の羽に手を載せる。
「涙雨は時空を駆ける妖異だ。一秒後には病院にいる」
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るうちゃんの翼に掴まって、その周りを突風が巻いたかと思うと、すぐに『お嬢よ』とるうちゃんの声がした。
風の勢いで瞑った目を開ければ、そこはいつか、黎と話した病院の中庭だった。
「ほんとに来ちゃっ……」
――ドクンッ
自分の呟きが終わる前に、心臓が一際大きく脈打った。思わず胸の辺りを押さえる。同時に、真昼を告げるまちの放送の鐘が鳴った。
――正午。私が生まれた、ちょうど一日前だ。
「――――!?」
全身をつんざくように襲って来たあまりの痛みに、今度は両手で頭を押さえた。
頭の中を風が駆け抜ける。何かが思い起こされていく。記憶、断片、集まって『真紅』になっていく。
――桜木真紅は、ここにいる。