「本家にいる、母上です」
「――、って、紅緒さん?」
まさか、本家に勝手に繋いでいるの? そんなことしていいんだろうか……。
「ああ。母上は本家の最奥に置かれている。影小路の本家は天龍(てんりょう)って山ん中にあってな。一応影小路家の拠点にはなってるんだけど、現当主も居つくことはなく、東京にある別邸にいる。さすがに山ん中じゃ利便さはないんだ」
「……ずっと、眠ってらっしゃるんだっけ?」
「母上の御身体は厳重に庇護(ひご)されている。母上が眠られた理由を知るのは、本家筋の人間と十二家当主とその周辺だけだ」
「じゅうにけ? って?」
私の問いかけに、黒藤さんは肯いた。
「影小路は小路流の宗家(そうけ)だが、長い歴史の中で多くの分家が出来た。本家を含めて十二の家が有力な幹部格の家としてある。小路十二家と呼べば、つまりは小路流の中心核ってことだ」
「じゃあ……その人たちは私のことも知ってるんだ?」
「ああ。十二家の一つに小埜という家がある。知っているか?」
「おの? ……って、黎が最初に言った名前……」
黎は初めて出逢ったとき、『小埜黎』と名乗っていた。
「小埜家は小路十二家であり、その縁で桜城家より黎を預かっている家だ。まあ、現当主の古人翁で小埜家は絶えるだろう。子どもも孫も、陰陽師となれるほど霊力がなくてな。あとはほかの十二家より養子と取るしかないんだが……他にもあまり余裕はない。真紅の存在が公にされていない現状、本家筋のガキも俺一人だ」