一つ目、本当に真紅嬢には退鬼師性はなく、影小路の血しか効力を持っていないこと。
二つ目、紅緒嬢によって封じられているものに桜木の血も含まれていて、血の持つ退鬼の力ごと封じられているために、黎明の子どもにはまだ影響が見られない。
三つ目に、なんらかの理由によって黎明の子どもには桜木の退鬼師の血が効果を発揮せず、今までも、今後も影響を与えない可能性。
……どれにしても真紅嬢よ、黎明の子どもを伴侶に望むのなら、一番の敵は桜城一族じゃぞ。
涙雨は黎明ののことを、『黎明の子ども』と呼んでいる。幾年(いくとせ)を生きる涙雨からすれば、百歳の人間だって子どもじゃ。
――桜城は鬼人の一族。そして真紅嬢は、主家の姫。
黒の若君が当主の確定を許していない以上、真紅嬢にも話は持ち上がる。
過去の始祖の転生は、ことごとく当主となってきたらしいしの。
現在小路流派だけでなく、陰陽師の世界で最強と言われているのは黒の若君だが、正式な後継者であるにも関わらず、何度も当主への就任を蹴っ飛ばしている主様だ。
そして真紅嬢が本気で陰陽師としての人生を選べば、その地位は黒の若君を脅かすだろう。
涙雨や無月殿、縁殿は、黒の若君が当主となることへ固執はしていない。
黒藤(あるじ)が興味ないのなら、式も興味を持たない。
黒の若君がどのような立場であろうと。それぞれ『影小路黒藤』の式に下ったのじゃ。『影小路の後継者』の式になった覚えはない。
真紅嬢が小路流に入れば、そして始祖の転生と知れれば、当然のように当主への道も話として出てくるはずだ。
当主の伴侶が、鬼人の一族の出身か……。
笑える話じゃ。
黒の若君が当主となることはないだろう。自分がそんなものになるくらいなら、流派ごと滅ぶ道を選ぶのが涙雨の主様だ。
ならば有力となるのは、やはり真紅嬢でしかない。
現状、黒の若君に次ぐ能力の持ち主と言えば、白の姫君と、今は眠っている先代の紅緒嬢となってしまうくらい、小路内外で見ても黒の若君の力は突出している。