結局、俺が桜城姓を離れることを最後まで反対し続けたのは架だけだった。

弥生さんが反対しなくなっても異議を唱え続けた辺り、架は本気で俺が跡取りに相応しいと考えているようだ。

だが、架と弥生さんを護るためにも、次期当主は架であるべきだ。

架の出生が知れることは、恐らくないだろう。けれど、鬼人の血も、そろそろ絶えていいころだ。

このまま家に残れと粘る架を引きはがして、一人病院へ向かっていた。

特に仕事が残っているわけではないけど、なんとなく小埜の家に帰る気にはなれなかった。雑務でもしていよう。

いつもは通らない道だ。桜城の家へ戻ったのも久しぶりのことだから。

――見つけてしまうのは、それが道理だからのように訪れた。

「……黎?」

「―――」

その華奢な姿を見て足が縫い止められていた俺に、紅(あか)の名を持った少女が呼びかけた。

「っ……」

いきなり目元を潤ませた真紅に驚いて慌てて駆け寄る。

「真紅? どうした。こんな時間に出歩いちゃ危ないって言っただろ?」

もう夜明けの時間も近い。なんでこんな時間に一人で――

「………」

『………』

一人、じゃなかった。

真紅の肩にちょこんと乗った紫色の小鳥と視線がかち合った。

俺の胡乱な視線を受けて、慌てて姿を隠そうとしている。

……ほんとーにもう関わっていやがったか、あのガキは。

すかさず紫色の小鳥を鷲掴みにする。

「おい鳥。まさかお前が真紅をそそのかして連れ出したんじゃねえだろうな?」

『のーっ! のーっ!』

「ちょっ、黎! るうちゃんに何するのっ!」

握りしめられて悲鳴をあげる紫色の小鳥を真紅が取り返した。

大事そうに掌に載せるのを見て、もやっとする。しかもるうちゃんとか呼んでんのか。