美愛さんは誠さんのことを、愛称で『マコ』と呼んでいる。その呼び方を聞いてドキッとした。今の今まで失念していたけど、真紅と同じだった。

真紅……。

俺には、その子だけ。

「……恋い得る(こいうる)人がいます。その子の傍にいてやりたいんです」

自分と真紅は、多分出逢ってはいけない者同士だったのかもしれない。でも出逢ってしまったし、触れてしまった。

逢いたいと、思ってしまった。

今は、逢いに行きたい。

「そのために桜城であることは邪魔である、と?」

「……はい」

誠さんは一つ息をついた。

「架のことはそろそろかとは考えていた。黎はここへ戻る気はないようだったしな」

「父さんっ、だから俺も跡継ぎとかは――」

「弥生。黎がここまで言ったんだ。お前ももう反対しないだろう?」

架は誠さんの視線一つで黙らされ、その隣の弥生さんに言葉がかけられた。

「……ええ。黎がそう望むのなら、反対しないわ。美愛、いいかしら?」

弥生さんは嘆息気味に言って、最後は美愛さんを見て困ったように小首を傾げた。

一人不満顔を続ける美愛さんは、むぅと唇を引き結んでいる。

「レイがここを離れることは、桜城の人間でないわたしに言えたことはないと思うの。でも……ねえレイ? いつかその子と、レイも一緒にここで暮らせたりはしないかしら?」

美愛さんの言葉に虚を衝かれたけど、少しだけ口角をあげた。

「……そう出来たらいいな、とは、思っています」

……叶わないと知っている架は、唇を噛んでそっと視線を逸らした。