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「俺を、桜城の家から勘当してください」
『――――』
母家(おもや)の居間に呼ばれて、まずそう言った。
向かいに座る父当主と、その隣の母。少し離れた隣に座った架と、その隣にいる弥生さん。
父のみが意味を噛み砕くような顔をしているけど、ほかの三人は呆気に取られて黙ってしまった。
「お前がいきなり帰って来たと思ったら……とうとうそんなことを言い出すか」
「申し訳ありません。いつかはと思っていましたが、少し早めたくなりました」
「理由は? 小埜家に養子でもなるよう言われたか?」
「そのようなことはありません。ただ……」
「うん?」
言い差して、言葉を区切った。どのように言うものだろうか……。
「ただ、離れたくなりました――」
「黎」
誠さんは、硬い声で遮った。
「嘘偽りを許すように育てた覚えはないが?」
鋭い鬼人の眼差しで言われ、口を引き結んだ。陰陽師の配下(はいか)に下ったとはいえ、人外をまとめあげている人だ。その鋭さは牙のよう。
俺も、腹を括った。
「――架を、正式に跡継ぎとして披露目(ひろめ)てください」
「兄貴っ? だから俺はそういうのは――」
「架。黙っていなさい」
誠さんに制されて、架は立ち上がりかけていたのを退いた。
今度は美愛さんが腰を浮かせた。
「レイ……桜城の名を、マコとおそろいのものを捨ててしまうの?」
美愛さんは、正式に誠さんの妻ではない。
桜城内部では長男の母で当主妻として認められているけど、対外的にはその位置は弥生さんのものだ。
『桜城美愛』という名も、戸籍上は名乗れない。まだ、『ミーア・ウォルフシュタイン』が、美愛さんの正式な名前だ。
「俺を、桜城の家から勘当してください」
『――――』
母家(おもや)の居間に呼ばれて、まずそう言った。
向かいに座る父当主と、その隣の母。少し離れた隣に座った架と、その隣にいる弥生さん。
父のみが意味を噛み砕くような顔をしているけど、ほかの三人は呆気に取られて黙ってしまった。
「お前がいきなり帰って来たと思ったら……とうとうそんなことを言い出すか」
「申し訳ありません。いつかはと思っていましたが、少し早めたくなりました」
「理由は? 小埜家に養子でもなるよう言われたか?」
「そのようなことはありません。ただ……」
「うん?」
言い差して、言葉を区切った。どのように言うものだろうか……。
「ただ、離れたくなりました――」
「黎」
誠さんは、硬い声で遮った。
「嘘偽りを許すように育てた覚えはないが?」
鋭い鬼人の眼差しで言われ、口を引き結んだ。陰陽師の配下(はいか)に下ったとはいえ、人外をまとめあげている人だ。その鋭さは牙のよう。
俺も、腹を括った。
「――架を、正式に跡継ぎとして披露目(ひろめ)てください」
「兄貴っ? だから俺はそういうのは――」
「架。黙っていなさい」
誠さんに制されて、架は立ち上がりかけていたのを退いた。
今度は美愛さんが腰を浮かせた。
「レイ……桜城の名を、マコとおそろいのものを捨ててしまうの?」
美愛さんは、正式に誠さんの妻ではない。
桜城内部では長男の母で当主妻として認められているけど、対外的にはその位置は弥生さんのものだ。
『桜城美愛』という名も、戸籍上は名乗れない。まだ、『ミーア・ウォルフシュタイン』が、美愛さんの正式な名前だ。