「……俺が行っても迷惑なだけだろ。お前は真紅を送って戻って来たのか? 忙しい奴だな」
「俺のはすきでやってるからいいんだよ」
真紅が架とともに梨実を訪れたことは知っている。でも、逢いにいけなかった。
「真紅ちゃん、若君と、御門の主(あるじ)とも逢ったよ」
「―――――」
月御門白桜にも?
真紅が影小路ゆかりの娘と聞いたときから、黒藤の存在は考えていた。だが、同じ稼業とはいえ違う流派の月御門まで出てくるのか?
考え込んでしまうと、架が言った。
「古人様が、御門の主を頼ったそうだよ。理由は、俺は聞いた」
「じじいが?」
胡乱に見返す黎俺に、架はため息をついた。
「またそんな呼び方を……。て言うか兄貴、俺には言わなかったよね? 真紅ちゃんとの初対面のとき、何したんだよ」
「………」
そこまでばれてるか。
「……お前には関係ないだろ」
「関係あるよ。真紅ちゃんは主家の姫であり、俺たちには真紅ちゃんと紅亜様をお護りするよう主命(しゅめい)が下っているんだ。……でも、最初に真紅ちゃんを助けたのは、兄貴なんだよね?」
「………」
「そんときに真紅ちゃんの血ももらった」
「……否定はしない」
「……大丈夫なの?」
「真紅は生きてるだろ」
「兄貴の方だよ。……若君も御門の主も断言はしなかったけど、……」
途中まで言いかけて、架は口を噤んだ。それ以上は、知っていても言ってはいけないことのように。
「架。一度家に戻る」
「……ん?」
「桜城の家に戻る。誠(まこと)さんには連絡してある」