『まあ、前の俺が、影小路に縁あったことは事実だ。黒藤とも無関係では……ないが……。早めに言っておくなら、黒藤の式の無月(むつき)も俺と同じ顔だ。驚くなよ?』

「むつき?」

『黒の若君には三基の式がおる。涙雨と、無月殿と、縁(ゆかり)殿という。無月殿は寡黙(かもく)ゆえ怖いと思うかもしれんが、面倒見の良いお方じゃ。黒の若君のことも、白の姫君のことで暴走したときは首根っこ摑んでぶっ飛ばして止められるお方ゆえ』

「………」

式――配下――に首根っこ摑んでぶっ飛ばされて暴走を止められる……それって主と呼んでいいのだろうか。そしてそれって面倒見がいいといっていいのだろうか。

無炎さんとるうちゃんが話を逸らした感じから、あまり踏み込まれたくない話題なのかもしれない。これ以上は訊ねないことにした。

「斎陵学園ってどんなところなんですか?」

『百合緋嬢のご家族が経営母体じゃな』

「えっ? それって……理事長とか、そういう?」

『そうじゃ。百合緋嬢は一族の中心からは外れておるが、実は現当主の一人娘でのぉ。本来なら跡取り娘であったかもしれん』

「……何か理由があるんだ?」

『まぁの。それが、百合緋嬢が御門におる理由でもある。百合緋嬢はその名前から、学校では理事長一家の娘と知られておるゆえ、腫れもの扱いというか……あまり仲の良い友人とやらもおらぬようじゃ。いつも白の姫君が共におって、白の姫君にもよく懐いておられる。……白の姫君大すきな我が主様とは険悪じゃ。黒の若君に敵意はないのじゃが、表では男として通している白の姫君を嫁にすると言ってはばからん主様じゃからな。百合緋嬢は主様を毛嫌いしておる』

……毛嫌いって……。