+
「桜城真紅ちゃん?」
月御門別邸を出ようとした私への呼びかけに振り返ると、小柄な女の子が小走りでやってくるところだった。肩口より少し長い髪はくるくるとしていて、走るたびに踊っている。
「百合緋様、昏い中危ないですよ」
後ろからやってくるのは天音さんだ。少女は一度だけ振り返ってから、私の前に立った。
「はーい。白桜へのお客様よね? 私、水旧百合緋(みなもと ゆりひ)。真紅ちゃん、白桜のこと知ってるわよね?」
――とは、本当は女の子だということだろう、と何となく察せられた。
「うん――えっと、桜城真紅、です」
「百合緋って呼んでね? あのね?」
ちょいちょい、と百合緋ちゃんが手招くので寄って行くと、内緒話をするように耳元に唇を寄せて来た。
「白桜が女の子だってこと、この邸(いえ)でも、私と白桜の式しか知らないの。真紅ちゃんは私のヒミツ仲間ね?」
すぐに顔を離した百合緋ちゃんは、にっこり笑った。ヒミツ仲間。
「……うん。わかった」
「よろしくね。私、白桜のお仕事には関われないんだけど、恋愛系の話だったら得意よ。気が向いたらまた遊びに来てね」
そういう百合緋ちゃんと天音さん、白ちゃんに見送られて、月御門別邸を出た。
+
「あの、無炎さん?」
『なんだ?』
帰り道、無炎さんは隠形(おんぎょう)したまま答えた。
その存在を教えてもらってから、大体このあたりかな? というのはわかるのだけど、隠形されてなお姿が視えるほどではなかった。
「無炎さんって……元は黒藤さんの式、とかなんですか?」
『いや、そんなことはないが……。見た目が似ているの、気になるか?』
「少し……。白ちゃ――白桜さんと黒藤さん、流派が違うって聞いたから……」
そこには誰もいないように見えるけど、無炎さんの声のする辺りを見て話してしまう。
無炎さんは、少々の背丈の差とにごった紅い髪を除けば、黒藤さんと双児のように似ている。
「桜城真紅ちゃん?」
月御門別邸を出ようとした私への呼びかけに振り返ると、小柄な女の子が小走りでやってくるところだった。肩口より少し長い髪はくるくるとしていて、走るたびに踊っている。
「百合緋様、昏い中危ないですよ」
後ろからやってくるのは天音さんだ。少女は一度だけ振り返ってから、私の前に立った。
「はーい。白桜へのお客様よね? 私、水旧百合緋(みなもと ゆりひ)。真紅ちゃん、白桜のこと知ってるわよね?」
――とは、本当は女の子だということだろう、と何となく察せられた。
「うん――えっと、桜城真紅、です」
「百合緋って呼んでね? あのね?」
ちょいちょい、と百合緋ちゃんが手招くので寄って行くと、内緒話をするように耳元に唇を寄せて来た。
「白桜が女の子だってこと、この邸(いえ)でも、私と白桜の式しか知らないの。真紅ちゃんは私のヒミツ仲間ね?」
すぐに顔を離した百合緋ちゃんは、にっこり笑った。ヒミツ仲間。
「……うん。わかった」
「よろしくね。私、白桜のお仕事には関われないんだけど、恋愛系の話だったら得意よ。気が向いたらまた遊びに来てね」
そういう百合緋ちゃんと天音さん、白ちゃんに見送られて、月御門別邸を出た。
+
「あの、無炎さん?」
『なんだ?』
帰り道、無炎さんは隠形(おんぎょう)したまま答えた。
その存在を教えてもらってから、大体このあたりかな? というのはわかるのだけど、隠形されてなお姿が視えるほどではなかった。
「無炎さんって……元は黒藤さんの式、とかなんですか?」
『いや、そんなことはないが……。見た目が似ているの、気になるか?』
「少し……。白ちゃ――白桜さんと黒藤さん、流派が違うって聞いたから……」
そこには誰もいないように見えるけど、無炎さんの声のする辺りを見て話してしまう。
無炎さんは、少々の背丈の差とにごった紅い髪を除けば、黒藤さんと双児のように似ている。