「………」
「誰かを助けるために何かを失うのは、望まない」
それがたとえ、自分だけのものでも。
白ちゃんを見て、微苦笑した。困ったように見えたと思う。
「『今の私』を失ったら、海雨に怒られちゃう」
だって、海雨がいつも受け止めてくれていたのは『真紅』だから。そして、黎が見つけてくれたのも『真紅』だから。
今、から、変わる気はない。
ただ、増やしていくだけだ。
「失う気はない。でも、手に入れる気はある。……傲慢(ごうまん)、かな?」
白ちゃんは、唇の端をゆるめた。
「傲慢なのが人だ。手に入れるつもりなら、手にしたものを手放さない覚悟もしておけ。俺は真紅の相談相手にはなれるが、指導者にはなれない。真紅はあくまで小路の人間だからな」
白ちゃんは音もなく立ち上がった。
「黒に話を通して置く。今日より陰陽師として、また退鬼師として、学ぶことは山積みだ」
「うん。がんばる」
今、私の手には海雨の手がある。そして、少し伸ばせばきっと黎にも届く。
『また』、と言った。あの人は。また逢える距離にいてくれるはずだ。
――この手が届くうちに、掴まえて抱きしめる。
「帰りも無炎をつける。それから、これは俺からの提案なんだが、斎陵(せいりょう)学園に転学しないか?」
「……転学って、転校? 私が?」
「斎陵学園は、旧(ふる)い家の人間が多いんだ。俺や黒としても、真紅が同じ学校にいてくれると色々とやりやすい。場所も遠いというわけでもなし。……考えておいてくれ」