あまね、に、むえん?
「……だれ?」
「白桜が式の二基(にき)だ」
いきなり聞こえた男性の声に、思いっきり肩を跳ねさせた。
「!?」
誰っ? まさかつけられて――
振り返った視線の先に、急に青年が現れた。今まで誰もいなかった場所に、突如現れたように見えた。
私が大きく目を見開と、青年は軽く手をあげた。
「よう。お初にお目にかかる。……そう怯えないでくれ、真紅嬢。白桜が式で、無炎という」
「――黒藤さん、じゃないの?」
いきなり現れた青年は着物姿で、髪の色と少し背丈が違うけど、その面立ちは黒藤さんとうり二つだった。
『真紅嬢よ。そちらは白のひ――若君の式のお一人じゃ。面差しは黒の若君と同じじゃが、無炎殿は妖異、人ではない。無炎殿は、真紅嬢があぱーとを出られてから、ずっと護衛しておってくれたのじゃ』
「……護衛?」
白ちゃんの式で、妖異。……全然気づかなかった。
無炎――という名の青年は、くすりと笑った。
黒藤さんと双児かと思うほど似ている顔だち。髪はにごった紅で、黒藤さんより心持長めに見える。着物に袴といういで立ちで、装飾品の類はない。
「涙雨が、白桜に先触れをくれたからな。だが、いくら涙雨がいようと請負側としても、女性を夜道に歩かせるのは駄目だということで俺が遣わされた。居住から姿を見せては説明が面倒だから、ここまで隠形していた」
すまんな、紅い髪の、黒藤さんとそっくりな無炎さんは手を振った。
「え、と……ご存知かと思いますが、桜木真紅です」
「ああ。中へ入れ。天音が待ちくたびれている」
大きな木の門が開いた。私のいる外側からは誰も手を触れていない。
ゆっくりと動くそれを見つめていると、向こうに頭(こうべ)を垂れた――女性がいた。
「ようこそいらせられました。真紅お嬢様」
そう言ってから顔をあげたのは、天女もかくやというほど麗しい女性だった。