「真紅―? おーい、ママじゃねーぞー」
「……え。ええっ!?」
がばっと飛び起きた真紅はうす掛け一枚握って窓際まで逃げた。
「なっ! 何あんた! どうやってここに入ったの! 警察呼ぶよ!」
「やっぱ混乱するよな……」
雑に頭を掻く。そりゃ、眠る前は出欠多量で死にかけていた真紅だ。そしてあの口ぶりは、今この場で血を吸いつくされ命を終えることを望んでいる言葉だった。
一瞬、何と言うか考えた。この反応だと、真紅に俺の血が馴染み始めていて、貧血状態からは脱したようだ。でも、落ち着け、と言ってこういう場合で落ち着いてくれたためしがあるだろうか。
いや、ねーな。
「真紅の血は甘い香りで美味しかった」
「はあ!?」
ものすごく危ない人を見る目で見られた。その反応を見てから、またもやそりゃそうだと思う。いきなり血の話って。吸血鬼だとは言ったけど。
「真―紅。憶えてないか? お前が最期まで一緒にいてくれるなら血をやるって言われたんだけど」
「そんな頭悪いこと言う奴がいるか!」
「いや、お前なんだけど」
とは、大声では言えなかったのでぼそっと言った。
「じゃあ、首に手ぇ当ててみ。牙痕(がこん)――この、牙の痕あんだろ」
と、口を開けて自分の牙を指して見せた。人間にはないほど鋭利な。真紅は目を見開き首に手を当てた。そして顔色を変えた。
「――きゅうけつき……?」
……思い出してくれたか?