――今の声は、黒の式のものだった。だから俺に向けられたものだが、波動で黒にもわかっているだろう。

「戻る」

言い置き、家に向けて歩き出した。

黒は現在、影小路の所有する庵(いおり)にいる。

月御門の本家は京都に構えているが、影小路は天龍(てんりょう)という山の中に本邸がある。

本家に次ぐ高位に『小路十二家』というほど、格の高い分家が十二もある流派なので、影小路所有の家は各地にある。

黒がいるのは、その中の一つだ。

「白――」

「うちに来たら」

顔だけで黒を振り返る。

「天音がいるからな」

「……今度こそ首を掻っ切られる気しかしない……」

俺の忠告に、黒は顔色を悪くさせた。

天音は俺の式として、護衛のために百合姫の傍にいることが多い。

今は無炎が隠形して俺の傍にいるので天音が今のやり取りを知ることはないが、カンペキに俺に下心のある黒は最重要警戒対象なのだろう。

天音は、母の頃より仕えている。

月御門に、ではなく、俺の母・白桃個人に。

だが天音が母様の式であったことはなく、使役に下ったのは俺が初めてだった。

天音という名も母様が与えたもので、かつての通り名は『鬼神の天女(きしんのてんにょ)』という。

「お前も夜警終わったら、大人しく帰って少しは寝て置け。いくら睡眠時間少なくていいって言ったって、身体は人間だ。無理は積もるぞ」

「おー。白はこのまま帰邸(きてい)?」

「客人だ」

すげなく返して、そのまま家に向かった。

涙雨が寄越した伝令。どうやらこれから来客がありそうだ。