「……いい加減『たいおん』って呼ばないと、また怒り散らすんじゃないか?」

「あいつの言い分を一方的に聞くのは嫌だ」

子どものようにそっぽを向いた。黒はまたため息をつく。

たいいん、たいおん――太陰。月の化身。

「海雨も死なせらんねえが、黎も死なせらんねえな」

黒は話を戻した。黙然と肯く。

「黎の方にはさっき、無月を遣(や)った。無月は黎に逢ったことがあるから、異常があれば知らせてくる。海雨の方は……」

黒が言いよどむと、俺は視線を黒藤に戻した。

「真紅が自分から言い出したんだが、浄化を真紅がやるのも手じゃないか?」

「……それは、出来るようになるまで時間がかかるだろう」

真紅は生来の力は強いだろうが、それを扱うことは一切経験していない。それが出来なくてはただの『霊感の強い人』だ。

「海雨の方が、時間がかかるのは承知してもらうしかない。十年以上の瘴気なんだ、俺らでもすぐにとはいかない。……それに、本体を退治たのは真紅の霊力だ。同じ者が解きにかかった方が、海雨への反動は少ないはず」

「そりゃそうだけど……」

「真紅は、お前のとこに行くよ」

「……俺が

「小路流に入るっつー意味だぞ? 舌を噛む準備はいいか?」

「先読みし過ぎだろ! 拳握るな!」

黒が言いそうなことは大体察しがつくので、俺は言わせないだけだ。今だってどうせ、嫁どうの宣う気だったろう。