「……怒ってないの?」

「旦那様に? 別にないわ。今更っていうほどの年数経っちゃったし、わたしに真紅ちゃんをくれたしね」

「――じゃあ、ママがすきだった人って、ほんとに今までいないの?」

「んー、それはヒミツかな?」

「……私には言わせたくせに」

「それは年の功よ。誘導尋問」

にっこりと言われた。悔しい。

「ってかママって、影小路のおうちから出てる割には色々知ってるよね? 黒藤さんとか白ちゃんとか、架くんのことも」

「紅緒が色々話しに来たのよ。紅緒も、結構家のことが嫌いだったから、よく影小路の邸(いえ)を抜け出して私のところに来てたの。黒ちゃん連れて来たり、白ちゃんのお母様と一緒に来たり」

郷愁(きょうしゅう)するように、掛け布団の上で膝を抱えるママ。私は思ったことを訊いてみた。

「白ちゃんのお母さんって、もしかして御門の先代さんとかだったりするの?」

するとママは、淋しそうに顔をゆがめた。

「……白ちゃんのお母様は、白ちゃんを産んだすぐ後に亡くなられたの。出産が直接の原因ではないのだけど……。それは当主を襲名する前のことだったから、御門の先代は白ちゃんのお祖父様になるの」

「お母さん……いないんだ……」

「ええ。だから余計に、紅緒は白ちゃんも大すきなの。……絶対に秘密だけど、白ちゃんが本当は女の子だっていうのも、紅緒に聞いたのよ」

「……それはほんとーに、秘密なんだよね?」

「絶対ね。御門の家の中でも、知ってる人少ないらしいから。でも……真紅ちゃん、どうしてわかったの?」

「なんとなく」

私の返答に、ママは大きく瞬いた。正直私には、それ以外の答えはなかった。

最初から、白ちゃんは女の子だと思っていたから。

架くんに『白桜さん男だよ?』と言われて、『女の子でしょ?』と返したあとに、『あ、制服が男子だ』と気づいたくらいだ。

「……やっぱり影小路の子なのねえ」

呟かれて私は、「うん」と肯きたくなった。