誰にも話せない……話してはならない。
白ちゃんは続ける。
「守秘義務なんてものがある以前からの、陰陽師の掟。破れば相応の罰を喰らう、法理よりもいにしえの、人の約束だ」
「―――……」
いにしえの、人の約束……。
血に刻まれた性(さが)。
白ちゃんは私から視線を逸らした。
「このことへの返事は急がない。急を要するのは黎明のに流れる真紅の血のことだな。そして、紅緒様が目覚めたあとの影小路への対応をどうするか。……影小路に入る決意は、揺らいでいないか?」
私が架くんにだけ伝えた言葉。白ちゃんは承知の上だったか。
「………」
私は、唇を引き結んだ。
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私の誕生日は、明後日だ。十六年前の二日後の真昼に、私は生まれた。
あと……一日と十二時間。
初めて見る時計を見て、そう心の中で独りごちた。
時間は深夜零時。いるのは、ママのアパートだ。
私が住んでいたのと同じくらいの狭さ。家具も電子機器も最低限で、リビング兼ダイニングの場所には、ママと私の布団を二組敷けばいっぱいになってしまう。
……ママは、ここに一人だったんだ。
白ちゃんに、ママの許へ送り届けられた私は、笑顔のママの胸に飛び込んだ。
考えることがたくさんありすぎて、不安なことがたくさんありすぎて、少しだけ童心に還りたくなった。