「美愛(みあ)」

父は母をそう呼んでいた。優しい声。母はそれに、微笑みで応える。

異国の娘であった母。本名は『ミーア』というらしい。日本で生きていくために、父がそれに漢字をあてた。

古めかしい家、味方は父だけ。

俺の吸血鬼性は、母から継いだものだった。

吸血鬼と言っても、俺の血は半分の混ざりもの。吸血した相手を吸血鬼にすることもないし、幼い頃は血なんか吸わなくても、人間と変わらない食生活で生きて来られた。

――時が来るまでは。

「こんなガキみたいな奴の血がうまいなんてなあ、自分」

やはり、俺の本質は鬼人(きじん)ではなく吸血鬼だったか。

勝手に引きずり出した布団に横たえた真紅の頬を撫でる。

俺は母が吸血鬼なら、父は鬼人の家の当主だ。例のない混血だった俺は、今、実家に縁のある陰陽師の家に籍を置いて、監視下にある。

――ということになっている。

監視という名目に匿われて、俺は今、人間として生きることが出来ている。

そんな厄介なだけの自分が。……よりによって人間の血を欲するようになるなんて。

最期まで傍に、なんて約束を、するりとかわしてしまうなんて。

「真紅……」

最期のとき傍にいる。

その言葉は、嘘じゃない。

「ん……」

「真紅?」

「んー……? ママ……? 今日は遅かったね……」