「自分への否定じゃなければいいんじゃない? その通りで、若君はあの通り跡目になる気はないって言い放ってるんだ。今回本家に呼ばれたけど、断って帰ってきちゃったみたいで。……白桜さん嫁にするからって言って……」

架くん、落ち込み期。黒藤さんの話になるとちょいちょいあるな。

「まさか白桜さんが女性だなんて知らなかったし……白桜さんの言い方では、小路でも知られてないみたいだけど――……まあ、男の人がすきって思われてる」

「………」

そういった話にはコメント出来ない私だ。

「それにもう一つ、若君を次代にと推す声と、異を唱える声の理由があるんだ」

「理由?」

「若君はそれにはあまり頓着してないから、桜城(うち)としてもそれは取り立てる気はないんだけどね」

すぐに回復した架くんは、けらっと言った。

「そんな簡単に言っちゃっていいの?」

「うーん、重すぎるネタだからあえて軽く言わないと、泥沼に引きずり込まれそうというか……」

重すぎるネタ。

「そういうものか……」

「不謹慎って思われるかもしれないけどね」

「それは……受け取る側によるよね。私は、そうかって納得したから」

素直な感想を口すると、架くんは少しだけ目を見開いてから、口元を緩めた。

「真紅ちゃんはさ、紅亜様のこと、悪く思ったりはしてないの? 理由はあれど一人だったこと」

「んー、なんだかんだ言っても、毎日逢ってたし、彼氏が私を嫌ってるからっていう話も、建前? な感じは薄々だけどしてたから……ママのことは、すきだし」

ママは、いつも全身で笑みを向けてくれていた。それを嘘や偽りと感じたことはなかった。一緒に暮らせないことは淋しかった。

でも、逢えないわけではなかった。……今は離れていた理由が、私のためだと知った。

「でも……やっと一緒に暮らせるの、やっぱり嬉しい」

もしかしたら叔母さんも一緒になるかもしれないけど、それも楽しみだ。ママは、妹とどんな風に接していたのだろう。

十六年前に眠った双児の妹。