静かな声で制されて、口をつぐんだ。
悪いことを口にすれば……
「兄貴ね、彼女とかいたことないんだよ」
ふと、桜城くんはそんな話を切り出した。やや面喰いつつ眉根を寄せた。
「……さっき白ちゃんに、黎のことは知らないって言わなかった?」
「接触は少ない、って言っただけだよ。家のこととか血筋のこととかあって、兄貴は独りになるように自分で仕組んでいたから。そんな人が、自分から真紅ちゃんには逢いに行った。その行動だけは、信じてあげて」
二度、黎の方から私を訪ねてくれた。逢いに来たのが迷惑だったか? と問われたときは、抱き付いてしまいたいほど嬉しかった。
「……嬉し、かった」
「そっか。よかった」
「……うん」
逢いたい。逢いに行きたい。その銀色の瞳を、また見たい。
何度でも、逢いに行きたい。
首に残った痕を心配して困ったような顔をしたら、大丈夫だよと伝えたい。この痕のおかげで、生きているんだよと、言えるようになりたい。
――言える自分に、なりたいんだ。
「桜城くん――架、くん」
「ん?」
「私、自分の血に、克(か)ちたい」