恐らく私の覚醒というのは、昨日、病院を出たあとの夕陽を見た瞬間だ。
そのとき、私を襲ってきたものを脳が理解し、私に教えて来た。少しずつ姿が視えるようになった妖異。
そして、私はそれが視えることに違和感を覚えなかった。それが当たり前だと感じていた。海雨の周りに黒いものが漂っていることにも気づいていたことに、気づいた。
本当は、私自身はずっと前から知っていたのに、巨大すぎる封じの力で抑え込まれ、気づかないようにさせられていた。
……それが、ママの妹が決めた、私の助け方。
「でも、それがなんだかわからない。……だから、白ちゃんに手伝ってもらうの」
すでに陰陽師である白ちゃん。海雨のことも、協力してくれると言っていた。
「そっか。……俺に出来ることお二人ほどはないけど、なんでも言ってね? なんて言ったって真紅ちゃんは兄貴の彼女なんだから」
「っ、……桜城くん、それは……」
「どうなるんだろうねえ」
彼氏なのも役だって知ってるでしょ? そう言う前に、桜城くんはにっと笑った。わざとらしくからかわれるのって、うう……なんだか居たたまれない……。
「……桜城くんは、反対しないの?」
「なにを? 真紅ちゃんが影小路に入ること?」
「それもあるけど……私が、黎の近くにいること。白ちゃんは現状では総てが否定出来ないって言っていたけど……まさかってことも、あるんだよ?」
退鬼師の血が、鬼を喰らい尽くす結末も。
桜城くんを見られずに言うと、桜城くんは「うーん」と唸った。
「……その心配はあるかな。白桜さんも否定しなかったし。でも、兄貴は真紅ちゃんに傍にいてほしいって思ってるし」
「……? そんな話したの?」
「話してはないけど、わかるよ。一応兄弟だからね。むしろ、自分が傍にいたいって思ってるよ」
「………」
ほんとう?
「そう、なのかなあ……。でも、
「でもとかだって、は言わない方がいいよ? 白桜さん、言ってたろ? 陰陽師の言霊は普通の人より呪いの力が強い。真紅ちゃんはまだそれではないけど、その資質は大いにあるんだ。……口にすれば、それは現実(ほんとう)を引き寄せてしまう。悪いことを口にしたら、現実も悪い方へ行ってしまう」