何も知らないことを許されて来た十五年。
その間にこの白い陰陽師は、この紫色の小鳥は、どんな世界で生きて来たのだろう。
掌から私を見てくる小鳥は首を傾げるような動作をした。
「何を謝ることがある。家業(かぎょう)が嫌だったら、俺も家出だろうとなんだろうとしている」
「貴方がそんなことしたら若君が御門から集中抹殺されるだけです」
桜城くんの言葉に、白ちゃんはまた舌打ちをした。
白い陰陽師と言われながら、ところどころで黒さを見せる人だなあ。
そして白ちゃんが家出なんかしたら、黒藤さんがそそのかしたと思われるということか。これはるうちゃんも否定しなかった。
「黎明ののことは、俺も調べておく。こう言っては難だが、研究対象としては黎明のは貴重だから失うには惜しい。……俺も黒も、黎明のを死なせる気はないよ」
唇の端に笑みを見せる白ちゃんを見て、年齢にそぐわない圧倒的な自信が見えた気がした。
「…………あ」
ありがとう、と言おうとして、言葉はつかえた。
何かが違う気がした。今、私が白ちゃんに口にすべきは、それではない気がした。
「……さっきから白ちゃんが言ってる、『黎明の』って、黎のことだよね? どうしてそんな呼び方を?」
「ん? ああ……陰陽師の言霊は普通の人よりも、呪いに近い。黒は主家である影小路の者だから名前で呼んで構わないんだが、一応俺は別の流派だからな。他家の者は余程関係が近くない限り、そういう通り名で呼ぶんだ。『黎明の』は、単に名前を文字ってだな」
「そうなんだ……。桜城くんは? 白ちゃん普通に呼んでるけど……」
ふと気になって問うと、桜城くんの肩が跳ねた。
「架は、前に俺に突っかかってきたことがあってなあ……。黒のことを誘惑すんじゃない、とかなんとか。そんで面倒くさくなって名前で呼んで、刃向かったらある程度のことがあると暗に脅している」
「………」
「……見ないで真紅ちゃん……」
また両手で顔を覆ってしまった。見るのはやめてあげた。代わりに白ちゃんに目をやる。
「前はなんて呼んでたの?」