「……妖異が視え、涙雨の声も聞こえているということは、真紅の霊力は形になりつつある。紅緒様の封じを破って出てこようとするのを、紅緒様の力で無理矢理押さえつけている状態のようだ。こうなれば、紅緒様がかけた誕生日という約束の時間の前に、妖異も真紅に気づくだろう。……今はまだ紅緒様の力で真紅に近づけないでいるだろうが……」

「………」

唇を引き結んだ。白ちゃんの結界の中では『妖異の類』というものは視えないし感じもしないけど、今朝から決定的に、人間ではないモノが視えている。

声が聞こえているのはるうちゃんに限ってだけど、私自身、もう自分の血は否定しようがない。

影小路の娘であることも、桜木の血を引いていることも。

……ん?

「あの、白ちゃん、桜城くん。……珍しい苗字ではないと思うんだけど、桜城くんとうちが同じ苗字なのって、なんかあったりする?」

今まで、『同じ苗字だから桜城くんに構われている』程度でしかなかったけど、こうも名前に重きを置かれると勘ぐってしまう。

「真紅の家とか? そういうのはないが……過去の中には、関わりはあったかもな。架の桜城家は鬼人の中でも中立で、人間に害悪なす妖異を抑えたりが得意でな。調停役というか。今では影小路の従家(じゅうけ)という立場だが、それまでは対等でもあったんだ。何代か前の小路の奴が、その代のちょっとはっちゃけた桜城の鬼人をぶっ飛ばしてそうなったらしいな」

「………」

そっと桜城くんを見遣った。桜城くんは両手で顔を覆っていた。

「……本当らしいんだ。うちのご先祖は小路相手に何かやらかしたらしいんだよ……」

相当心痛な過去があるようだ。深くは突っ込まないでおこう。

「涙雨。現状ではお前が真紅の護衛をしているんだよな?」

白ちゃんに問われて、先ほどの言葉が余程怖かったらしいるうちゃんはひっしと私の肩から離れないで、その身を震わせた。

『そ、そうじゃ。黒の若君から言い付かっておっての』

るうちゃんは気丈に話そうとしているけど、その声は震えていた。

白ちゃんは気づいているのかいないのか、全くその様は意に介さない。

「なら当面は心配ないな。真紅、どこかへ出かけるときも、必ず涙雨と一緒にな?」

言われて、肯きながらるうちゃんを掌へ乗せた。

『お嬢?』

「真紅でいいよ、るうちゃん。白ちゃんも……ありがとう。……ごめんなさい」